プライバシーの侵害だ

匿名劇壇という劇団を主宰する福谷圭祐のブログ。このブログは基本的に自分のためだけに使おうと思います。考えをまとめたり、情報を整理したり。ま、もちろん他人の目に触れることは意識して書くけれど。 でも、あまり読まれたくはない。だからタイトルは、 「プライバシーの侵害だ」 。

『悪い癖』終了、気づいたこと。

お世話になっております。

 

匿名劇壇『悪い癖』全日程無事に終了しました。

皆様のおかげです。本当にありがとうございました。

 

作品の出来不出来ではなく、事故やトラブルがなく終わることができたということにまずホッとしてしまうのは、いささかの心境の変化だろうか。あるいは周囲を取り巻く環境の変化だろうか。

初演の『悪い癖』と比べて、「作品としての完成度が上がっていた」と言っていただけることもあったりして。そして、それはとてもめざしていたところであったりして。

 

なにかこう、最近は「思いの丈を叫ぶ!」とか、「表現するぞ!表現するぞ!表現するぞ!」とか、「この作品で売れるんじゃい!」みたいな気持ちがちょっと落ち着いていて。さ、作品を作ろうぜ。そして、それを届けようぜ。なんかもう、そこは普通に、冷静沈着に」みたいな気持ちがずしっと心に置かれるようになった。

だからやっぱり、「作品」になっていて、それを「届けられた」ことに、ホッとするんだと思う。大人になったというより、老いたというほうが適切な気もするけれど。

 

ほんっとーに、事故やトラブルがなくて良かった。

初演のパンフレットに「ヒヤリハットがどうのこうの」とか書いていたもんだから、それを読んで以来すんげー怖かったんだよな、今回。「小さな、事故や事件なんて呼べない“違和感”(それはちょっとした遅刻や、言葉の意味の受け取り違いかもしれない)が積み重なって、劇団にもそのうちエラいことが起こるんだろうな」みたいなことを二年前に書いとんねん、俺。何書いてくれてんねん。ごっつ怖いわ、もう。予言すんな。

僕には予言癖があって、Jerk!!という作品のあらすじを2013年に書いたんだが、ほんともうスレスレを横切っててすごく怖い。今日の記事の最後に載せるわ。

 

##

 

さて、今回の稽古で気づかされたことがあった。

 

稽古途中、大崎役の芝原とどうも向かう方向が合致せず、言葉を尽くしても、芝原が表現するものは僕のめざしたいところとは違っていて。そこで僕がそれまで演出で使っていた、「大崎という人は、愛想がよい人だと思う」というところに立ち返って、「芝原にとって、愛想がいい人って例えば、芸能人なら誰?」と聞いてみたのだ。

そうすると、少し考えてから、彼女は「マツコデラックス」といった。

 

そこで僕は、すごく納得した。そしてこう伝えた。

 

「なるほど。そうか、例えば僕は、愛想がいいと言えば小島瑠璃子が思い浮かぶ

「でも、きっと芝原にとって、小島瑠璃子は愛想が悪いんだと思う。(彼女は頷く。)でも、僕にとってマツコデラックスは、決して愛想がいいとは思えない。どちらかといえば愛想は悪い部類に入っていると思っている。」

「今、どちらの認識が正しいとかではなく、“愛想がいい”という言葉の理解が、全く二人の間で違っていたんだねということがわかった」

「だから、“愛想がいい”という言葉にこだわったディレクションは間違っていた、ごめん。」

「それを忘れたうえで、今一度表現したいことを伝えていきたい」

 

というようなやり取りがあった。

ほんと、心底、なるほどなと思った。

僕は出来るだけ、違った角度からディレクションをして、望む表現に辿り着くように工夫した。ここで「小島瑠璃子的愛想のよさを認識して、それをやってくれ」というのも、何かがズレていくのだろうと思って避けたうえで。

 

僕はできるだけ、役者に何かを伝えるとき、類義語を多く用いる。まあそれはぶっちゃけ意図してない癖のようなものだけど、決して悪い癖じゃないなと思った。だから意識して。

 

これを経てから、佐々木の演技に対してのオーダーも「ライト…いや、ポップ…。違うな。もっとこう…、トマト。そう、フレッシュなのかもしれない」というようなことを言うようになった。きっとより、齟齬を抑えられるようにはなったと思う。

 

単に「ポップ」、単に「ライト」は、認識が大きくズレてしまうことだってあるんだな。

 

っていうことが、なんだか面白かった。

当然、こうした言葉の認識のズレに気づかずに作ってきた作品はたくさんあるだろうし、友達同士の会話だって、ズレたままはしゃいでいることはよくあるだろうけど。

 

「おっ、ちょっとは俺も演出家らしくなったんじゃねーの?」と思う出来事だった。

 

##

 

違った価値観の集合体で当たり前だ。

できるだけ押し付け合わず、互いに寄り添うことができればいいなと、切に願う。

 

「冗談」が通じないことも増えてきた。当然だと思う。

ズレていくのだ。私たちは。

私たちはズレていく、どうしたってズレていく。

 

ズレないようにするのではなく、ズレを、例えばそれを翻訳と言ってもいいし、為替と言ってもいい、つまりは変圧器を、上等なものに仕上げていくことが大切なんだろうな。

 

##

 

以下、Jerk!!のあらすじです。(HPでも読めます)

ほんと怖い。こういうもんは書くもんじゃないなと思う。

ペシミストも度が過ぎると、未来の自分を怯えさせ過ぎるから、気を付けて。

 

松崎友松は平成25年3月にK大学芸術学部演劇学科を卒業した。卒業式のあと一旦帰宅し、学友会活動功労賞の紙切れと、最優秀学生賞の置き時計を押入れにしまいこんで、一万円分の図書カードを金券ショップで換金してから謝恩会へ向かった。その後、後輩の浅井奈緒美と二時まで酒を飲み、四時まで遊び、六時まで寝て、八時に帰った。平成25年6月、松崎友松が主宰する劇団が大阪演劇祭に参加し、第三回本公演を実施。優秀劇団に選出された。舞台美術を解体中、パチンコ屋で二時間さぼり、二万円を失う。その後、打ち上げに向かい、十二時まで飲んだ後、その日知り合ったカメラマンの平山文絵とホテルに泊まった。平成26年8月26日に借金が百万円を越えた。同年10月、ピンサロで出会った仲野遥子と交際を始める。平成27年5月に劇団員四名が脱退。松崎友松の自己満足に費やした五年間を返せと罵られる。同年8月、劇団員は松崎友松のみとなる。大町戯曲賞で佳作に選出。賞金の五万円で虫歯を治療。平成28年2月、仲野遥子の妊娠が発覚する。同年3月に破局。警備員のアルバイトを突如解雇され、借金の返済に困窮する。平成29年、入院。平成30年、西成区の編集プロダクションディライトに就職。浅井奈緒美と結婚。平成32年、東京オリンピック開催。同年12月、文京区在住大塚紗枝の自宅で首吊り自殺。 この作品は、松崎友松がここからここまでの間に、見たこと聞いたこと感じたこと、あるいはそれらとは全く無関係なことを、断片的かつ無作為に抽出し並べたものである。 自分勝手に、不随意に。 Jerk!!

 

(了)