プライバシーの侵害だ

匿名劇壇という劇団を主宰する福谷圭祐のブログ。このブログは基本的に自分のためだけに使おうと思います。考えをまとめたり、情報を整理したり。ま、もちろん他人の目に触れることは意識して書くけれど。 でも、あまり読まれたくはない。だからタイトルは、 「プライバシーの侵害だ」 。

知らないことを知っていることを知らないあんたはもう知らない

知らないことを知っていることを知らないあんたはもう知らない

 

***は僕のことをいつも馬鹿にしてきた。「そんなことも知らないのか」「どんな家庭で育ったんだ」「信じられない」と、僕の存在を何度も否定してきた。怒鳴り散らして、嘲笑してきた。大袈裟に溜息をついてみせて、頭を抱えてこちらを見てきた。何度も、何度も、何度も。僕はそのたび、僕のすべてが否定されている気持ちになった。現在の僕だけではなく、「知らずに育ってきた今までのすべて」を否定されている気持ちになった。事実、否定していたのだと思う。何度も何度も、「ありえない」と言われた。僕はここにいるのに、いないことにされた。ここにいないことが「ありえて」、ここにいることが「ありえない」ことにされた。だから、僕も同様に***の存在を心で否定してきた。僕は間違ってない。***が間違っている。そうしないと心が持たなかった。というか、持たなかった。だから。

 

いつまでも持っていた金属バットを、やっと机に置いた。

 

エッフェル塔を知らなくてごめんなさい。

日本三景を言えなくてごめんなさい。

マティスを知らなくてごめんなさい。

白い巨塔を読んでなくてごめんなさい。

KPIがわからなくてごめんなさい。

アリストテレスを知らなくてごめんなさい。

終戦記念日を言えなくてごめんなさい。

天保の改革がわからなくてごめんなさい。

連合赤軍がわからなくてごめんなさい。

衆議院参議院の違いが言えなくてごめんなさい。

現在の総理大臣が言えなくてごめんなさい。

現在の大河ドラマを知らなくてごめんなさい。

昨日のニュースを見てなくてごめんなさい。

クリムトを知らなくてごめんなさい。

イスラム教を知らなくてごめんなさい。

紛争の理由を知らなくてごめんなさい。

アンリアレイジを知らなくてごめんなさい。

珈琲を煎れられなくてごめんなさい。

小劇場を観たことがなくてごめんなさい。

ブリジストンの由来を知らなくてごめんなさい。

チャールズ・ブコウスキーを知らなくてごめんなさい。

美術館に行ったことなくてごめんなさい。

秋刀魚が読めなくてごめんなさい。

自分の血液型を知らなくてごめんなさい。

結婚式に行ったことなくてごめんなさい。

Excelを操作できなくてごめんなさい。

お葬式に行ったことなくてごめんなさい。

野球場に行ったことなくてごめんなさい。

台湾ラーメンを食べたことなくてごめんなさい。

Altキーがわからなくてごめんなさい。

着物を着られなくてごめんなさい。

神社とお寺の違いがわからなくてごめんなさい。

教会に行ったことなくてごめんなさい。

性交渉の経験がなくてごめんなさい。

一眼レフを扱えなくてごめんなさい。

新書を読んだことなくてごめんなさい。

バスの乗り方がわからなくてごめんなさい。

アプリの消し方がわからなくてごめんなさい。

創業者を知らなくてごめんなさい。

歌舞伎を観たことなくてごめんなさい。

M-1を観たことなくてごめんなさい。

となりのトトロを観たことなくてごめんなさい。

証券会社を言えなくてごめんなさい。

株価がわからなくてごめんなさい。

為替がわからなくてごめんなさい。

確定申告ができなくてごめんなさい。

紹興酒を飲んだことなくてごめんなさい。

小籠包を食べたことなくてごめんなさい。

そんなことも知らなくてごめんなさい。

自動車免許を持ってなくてごめんなさい。

眼科に行ったことなくてごめんなさい。

平等院鳳凰堂を知らなくてごめんなさい。

都道府県を全部言えなくてごめんなさい。

炭火を起こせなくてごめんなさい。

テントを立てたことがなくてごめんなさい。

ブレヒトを読んだことなくてごめんなさい。

浮世絵を見たことがなくてごめんなさい。

裁判所に行ったことなくてごめんなさい。

パラボラを知らなくてごめんなさい。

市外局番の意味がわからなくてごめんなさい。

釣りをしたことがなくてごめんなさい。

手続きをしたことがなくてごめんなさい。

首都が言えなくてごめんなさい。

標準時子午線がわからなくてごめんなさい。

南回帰線がわからなくてごめんなさい。

デイトナを知らなくてごめんなさい。

泳いだことがなくてごめんなさい。

シューベルトがわからなくてごめんなさい。

坂本龍馬を知らなくてごめんなさい。

煉瓦が読めなくてごめんなさい。

ネクタイを結べなくてごめんなさい。

16号線がわからなくてごめんなさい。

CDを買ったことがなくてごめんなさい。

クライアントがわからなくてごめんなさい。

飛行機の乗り方がわからなくてごめんなさい。

9月9日が何の日か言えなくてごめんなさい。

人口を知らなくてごめんなさい。

相場を知らなくてごめんなさい。

接し方がわからなくてごめんなさい。

挨拶ができなくてごめんなさい。

 

何にも知らなくてごめんなさい。

何にもできなくてごめんなさい。

 

でも僕は、知らないことを知っていて、知らないでいる僕がありえることを知っていたから。だって、ここにありえたんだから。***と同じように、ここにありえたんだから。僕からすれば、***のほうがありえないんだ。僕をありえないと言う、***こそがありえないんだ。だから、勝負したんだ。どちらがありえるか戦っただけだ。そして僕は勝ったんだ。汚れた金属バットと、転がった***が物語っている。僕は勝った。僕がありえたんだ。僕はここにありえたぞ。僕は、ここにいる!

 

・・・

 

「続いて、この凄惨な事件ですが…。玉山さん、どう思われますか。」

 

「非常に残酷で、恐ろしい事件ですね。ちょっと考えられないと言いますか…。彼はこれが初めての就職で、それまではずっと家に居たと…。ネクタイの結び方も分からなかったんでしょ?読書のひとつもしたことがないと。自室にはテレビもなく、インターネットほとんど触らなかったそうです。28歳になるまで、彼は一体どういった人生を歩んでいたんでしょうか。しかも彼はそういった自分の無知、世間知らずゆえのストレスを、すべてこの上司である堂島さんにぶつけたんです。

常識のなさを責めた堂島さんに対しパワハラだと責任を求める意見もあるようですが、私はそうは思いません。そもそも彼自体が異常に浮世離れしているわけですから。具体的な作品名は避けますが、非常に国民的なアニメ作品も、彼は知らなかったそうです。そういった情操的な部分に関しても、ひどく幼いまま大人になってしまったのでしょう。周りが当たり前に知っていることを知らないのは恥ずべきことであると、そんな当たり前の価値観が未熟だったんですね。彼の書いた通称「ごめんリスト」をすべて読みましたが、ひとつひとつは本当に、極めて常識的な知識でした。もちろん、それを知らないでいることが特別なことであるほどではないと思います。ただし、それらが積み重なることで、彼はやはり異常に思える。彼には知らないが多すぎる。それをある程度責めることは、至極当たり前のことだと私には感じられます。やはり、じゃあ君は何を知っているんだと問いただしたくなる。それを暴力で……。

これはね、ありえないことですよ。彼の無知や浅はかさが第三者に暴力という形でぶつけられた、許されざる悪魔の所業だと私は考えます。」

 

END